パリ郊外にあるポワシ－という町の音楽院で、私は10年間子供たちにピアノレッスンをしていました。
フランスには市立、区立の音楽院があり全ての子供達に門が開かれていて音楽に触れる環境が整っています。

　ポワシー音楽院でのレッスンは毎週土曜日9時から17時半くらいまで、毎年15人から20人くらいの生徒さん達を私は受け持っていました。
その中には10年間ピアノを教えた生徒さん達が3，4人います。今でもつながっている子達です。

　6月に入ったある日曜日の朝、当時のポワシーの生徒さん、J君から私のWebsite経由でメールが届きました。懐かしくて思わずソファーに座ってメールを読みました。
実に10年ぶりでした。

　当時8歳のかわいい少年だったJ君、5年間くらい一緒にレッスンをしました。
今はもう23歳だそうです！

　丁寧に心のこもった感謝の思いがつづられたメールでした。

“数年前から先生に連絡したかったのだけど子供の時、僕にピアノレッスンをしてくれてありがとうございました。とても感謝しています。
僕がピアノを好きになったのは先生のおかげで、ポワシーでのレッスンの日々はこれからも忘れることのない大切な時間でした。

あの頃、僕たちは素晴らしい”先生と生徒“のrelationshipで、ピアノレッスンを通して先生が僕にもたらしてくださったものは本当に大きかった．．”　とつづられていました。

　J君はいつもニコニコ顔でレッスン室に入ってきました。素直であどけない笑顔がいつも可愛らしくそしてピアノも上手な器用な男の子でした。
グレードテストではいつもいい成績で発表会に向けても一生懸命取り組んでいて、私もJ君とのレッスンの日々は素敵な思い出です。

“先生が辞められて結局僕はピアノをあの後やめてしまいました．．残念なことをした．．
でも5年後またピアノを弾きたいと思い、ずっと子供の時からお家にあるピアノに向かうことを決心しました。

今度は一人で、好きなアーティストの曲を聞いて楽しみながら自分でも弾いたりしています。
時々,ピアノを習ってはじめての発表会で弾いた”Boogie-ノリのいい曲“を弾いてみると懐かしい思い出でいっぱいになります。”

“先生が僕にピアノを弾く楽しさを教えてくださり、どんなに感謝してもしきれません。
気分がブルーになった時、また一日の終わりにピアノを弾くと心が落ち着きます。
あの時ピアノを続けていたらもっと上達したかもしれないけどピアノっていう素晴らしい楽器をここまで弾けるようになり僕は嬉しいです。“

　私は思いがけないJ君の心のこもったメールを読み感動して涙が出てきました．．．
何度も読み返しました。
しかも10年経ち、少年が大人になってから感謝の思いを伝えるためにメールを送ってくれたなんて、その日私は幸せな気持ちでいっぱいでした。

　フランスでのピアノレッスンを通して、私も何かを子供たちの心に残せてよかった．．
たとえそれが数人であったとしても、私は何かを伝えることができたと嬉しい思いでした。

　ピアノのレッスンはただ音や弾き方を教わって帰る、というのではなく時に色々なお話も二人でしたりします。
子供時代の多感な時期にピアノ、そして音楽を通して心のふれあい、あたたかさあふれるrelationshipが築けたなら、将来子供たちにとって素敵な思い出となり心に刻まれ残ると思います。

　そしてその子が大人に成長した時、音楽が自然に日々の中にある素晴らしさ、音楽と共にある心の豊かさ、うるおいを感じとってもらえたなら、私も子供たちにメッセージを伝えることができてよかったと嬉しい思いです。

〔Parisでの音楽活動の後、現在は兵庫県西宮市、夙川エリア、苦楽園口でピアノレッスンをしています（阪急夙川駅より徒歩8分、苦楽園口駅より徒歩5分）］

　パリ郊外にあるポワシ－音楽院で10年間ピアノを教えた生徒さんの一人、芸術的センス溢れるE ちゃんの紹介をします。
　初めての出会いは彼女が7歳の時、とてもおっとりした少し内気な女の子でした。
Eちゃんは絵がとても上手でクリスマス、夏のバカンス前にはいつも素敵な絵を添えた自作のカ－ドをプレゼントしてくれました。彼女の心に残る作品の一つを紹介したいと思います。

　このピアノの絵はEちゃんが8､9歳の頃だったと思います。
年号は書いていないけれど絵の裏を見ると私の名前をTanaki（Tamakiの代わりに）と書き
mと nを勘違いしていて、まだ小さかったのだなぁと微笑ましく思います。
　ピアノの縁を金色でなぞってあり素敵なセンスが光っています。そしてピアノの鍵盤もちゃんと描いてくれています。

　この絵は額に入れて私のレッスン室に飾り宝物にしています。
日本の私の生徒さん達もEちゃんの絵に見入っています。

　ポワシ－音楽院では10年間ピアノを教えた生徒さんが4人いました。
後にフランスが世界に誇るエンジニアを輩出するトップエリ－ト校に進んだGちゃん。
美術系に進みいつもバカンス前、そしてクリスマスには芸術センス溢れるカ－ドを書いてくれたEちゃん。
パリ国立高等音楽院に進み今では演奏家として活躍中のE君。

　いつも笑顔でリラックスムード、後に大学文学部に進みリストの「愛の夢」を弾くまでに上達したL君．．．

　皆初めて会った時は7歳くらい、まだ小さくてとても可愛いらしい時期でした。
10年間ピアノのレッスン、そしてグレード試験を通して一緒に頑張ったことはいつまでも心に残る思い出です。
　時にはレッスン以外のこともたくさんお話しました。
勉強も頑張り忙しいけれど、それでも生活の中にピアノがある、芸術がある、心が豊かになる素敵なことだと思いました。

　私が帰国した後も皆ピアノレッスンを続け、ピアノ大好きな大学生に成長してくれたことは私にとっての大きな誇りです。

　フランス人にとってクリスマスは日本のお正月のようなもの、家族でテーブルを囲んでゆっくりと語らいお祝いします。
今年のクリスマスディナーのメニューはどうしようかとフランスのマダムたちは秋ごろから考えています。

 

　11月下旬頃から街の大きなモミの木にはきらびやかな飾り付けがされています。
商店街のイルミネーションもキラキラと光り、冬のともすると暗い夜を明るく照らし心も弾みます。
　12月に入ると皆週末はクリスマスプレゼントのショッピングで忙しい．．
ポワシーのピアノレッスンは毎週土曜日、“今日はレッスンの後ママンとパリのデパートに行ってお買い物するんだ”と楽しそうにお話してくれた子供達が印象的でした。

　クリスマスのバカンス前、最後のレッスンではいつも生徒さん達に心ばかりのプレゼントを用意していました。
フランス人は大のチョコレート好き！金銀の包み紙の中にことわざ辞典のような言葉が書かれたチョコレート、読んでいて楽しく面白いので子供達に大人気でした。

　そして　“素敵なクリスマスを過ごしてね、また来年！”と言葉を交わして1年のレッスンを終えます。
楽しい年末のパーティーに心躍らせ、そして新しい年のパレットにはどんな絵が描けるかなと期待に胸を膨らませながらレッスン室を後にします。

　フランスでは新学年が9月に始まります。
ポワシー音楽院でレッスンがスタートするのは9月下旬、その前に各々のレッスン時間割を決める顔合わせがあります。2ヵ月ぶりの再会、そして新しい生徒さんとの出会いもあります。

　皆小麦色に日焼けして、バカンスを楽しみ思い出をたくさん作った後の爽やかな笑顔です。少し会わなかった間にとても背が伸びた男の子もいて、成長の速さにびっくりしたこともありました。

　そしてこの顔合わせは毎年恒例の緊張感高まる時間でした。
親御さんたちはソルフェージュの授業の前後にピアノレッスンを入れたい、または他のお稽古との兼ね合いなどで希望の時間をゲットしたく表情がやや硬い．．．
パズルのようになる時もあり、どうしても折り合いがつかない場合は年下の子に譲ってねとお願いしていました。

　この顔合わせは、バカンスでリラックスしきった私の頭を現実ペースに戻してくれる新年度の始まりでした。

　フランス人は友達を招いてホ－ムパ－ティ－をするのが大好き．．
ポワシ－市内にミニョ－島　Poissy（ L’ile de Migneaux）というセ－ヌ川に囲まれた小さな島があります。芸術家も多く住んでいる田舎風の島で時間の流れ方がゆったりしています。

　ある初夏の日、ミニョ－島にお住まいの生徒さん宅パ－ティ－に招かれました。
お家はかわいく、しかし迷子になりそうなほど広大なお庭でバ－ベキュ－を楽しみました。
子供達はバドミントンをしてのびのびと遊び、ここで私が最もびっくりしたのはお庭がそのままセ－ヌ川沿いで柵も何もなく水際で．．．

　そして大雨になって町がベニスのようになっても慌てないように各家ボ－ト、カヌ－をお持ちでした。島民の自然災害への備えです。　

　

　６月のポワシ－音楽院ピアノ発表会が終わると、子供達は待ちに待った２ヶ月の夏のバカンスに胸を膨らませます。夏のキラキラとした太陽の光を浴び表情も明るく輝きます。

　そしてこの１年頑張ったご褒美に､家にお友達家族を招きバ－ベキュ－とおしゃべりを楽しみます。パリのアパ－トはバルコニ－で煙を出すことは勿論禁止ですが、郊外の一軒家では、ガ－デンパ－ティ－をして１年の疲れを発散します。
　フランス人はバカンスのために年間頑張って働いています。ちなみに私もそうでした..！　　これからの楽しい旅行の話でいっぱい．．．フランスの夏は夜10時まで明るく皆遅くまでハイテンションです。

　フランスの新学年は9月に始まります。
学年末は6月、その後は待ちに待った夏のバカンス、二ヶ月のお休みをゆっくり楽しみ充電します。

　ポワシ－での6月最後のピアノレッスンの日、いつも生徒さん達は眩しく感じられました。日本の梅雨というイメージとはかけ離れた爽やかな、そして太陽の光を一杯浴び最も自由な空気感のする季節です。
　皆これから満喫する夏のバカンスに胸を膨らませ表情が輝いていました。
私自身も1年間レッスンや伴奏のお仕事を頑張った！と気分爽快でした。

　生徒さんたちは最後のレッスンの日、皆思い思いのプレゼントを持ってきてくれました。
お庭のリラの花、ピンクのシャクヤクの花束、お手製のカ－ド、素敵なお手紙などなど．．．

　そして「ボン バカンス！」、“素敵なバカンスを過ごしてね！”と言い合って、しばしのお別れです。

　パリの音楽院では5月下旬から6月にかけて学年末試験と卒業試験が行われます。
伴奏ピアニストが一年の中で最も忙しい時期です。
　夏へ向かいまばゆい陽光が降り注ぐこの季節に、ポワシ－音楽院で生徒さんのピアノ発表会を行っていました。

　子供たちはグレ－ド試験の後ストレスから解放され、のびのびと二ヶ月間発表会の曲を練習します。
　高校生の生徒さん達とはドビュッシ－、フォ－レの曲の連弾をしたこともあります。
会場は近くの小劇場、いつも学院側が用意して下さっていました。プログラムはA４の紙に印刷したシンプルなもの、写真も各自で撮り格式張った会ではありません。
でも人前で演奏するには緊張もつきもの、皆に練習を頑張ってもらいました。

　舞台上でお客さんを前に一人で演奏する、ピアノは精神力や集中力も学べると思います。

　ポワシ－音楽院の試験はグレードごとにすぐ結果発表が行われます。
審査員の話合いを待つ間、廊下で先生達も緊張の時を過ごします。そしてまず教師達が先に呼ばれ結果を告げられます。

　その後子供たちは親御さんと一緒に、結果を聞きに次々と教室に集まってきます。演奏順に一人ずつ名前を呼ばれ、点数と合否を学長が皆の前で発表していきます。
　一番トップの成績は“審査員全員一致、賛辞付きの優秀賞”です。
その他は日本語であえて言うなら“優等賞”、“優良賞”で合格ライン、パスできなかった場合は翌年また同じグレードで頑張ります。

　顔を輝かす子、がっかりする子、でも来年また頑張ろうと思う子皆それぞれ．．．審査員にコメントをその場で聞くこともできます。それがまた次年度に向けての原動力になっていたと思います。

　ポワシ－音楽院で毎年春に行われるグレ－ドテスト、ピアノは人数が多いので2日にわたって試験があります。いつも土曜日の午後に始まり日曜日の朝9時から終日、二日連続の早起きは私にとって大変でした．．．

　特に人数の多いグレ－ドは”初級２”，習い始めて2年目、かわいい子供たちでいっぱいの試験です。そしてレベルアップするにつれて生徒数は減っていきます。

　課題曲を演奏した後、簡単な初見のテストがあります。この初見の曲は大体8小節程度で先生達が各自プチ作曲をします。中には少しリズムがひねってあったり、”ラヴェル風に”とおしゃれなタイトルがついていたり．．．

　私は生徒さん達の顔を思い浮かべながら皆にとって親切でシンプル、そしてきれいだなと思ってもらえる曲を書いたつもりです．．！

　ポワシー音楽院の生徒さんは大半が楽しむために楽器のお稽古をしています。
グレ－ド試験の評価は甘くはなく、趣味でピアノを習っている子にとってはシビアでした。
もう少しのびのびム－ドでもいいのに．．と私はいつも思っていました。

　試験の審査は学長と二人の外部の先生で行われ、合格ラインはレベルアップするにつれハ－ドルが上がってきます。しかも同じレベルを3年続けてパスできないと、楽器を変えてみようと勧められるか、本当に続ける意思があるのかと学長と面談になります。
練習と努力をしてこそ楽器を楽しめる域に達する、そのメッセージの真髄を感じました。

　門は広く開かれていますが、フランスの実力主義がこんな子供の音楽教室にも反映されていました。

　ポワシ－音楽院のグレ－ドは大きく分けて三過程あります。
順調に進めば10年で終えるカリキュラムです。レベルのスキップもできて一度に2段階のグレ－ド試験をパスすることも可能です（フランスでは学校も飛び級ができます）。

　第一過程が4段階（6歳から10歳位）、第二過程が3段階（10歳から14歳位）、このレベルまでは院内で試験が行われます。それ以上の上級クラス第三過程は、県内全ての音楽院の統一試験を任意で受けます。
しかしプロ志向でなく、ここまで継続できる子はごく僅かです。

フランスには日本のような通塾習慣はありません。しかし勉強との両立はよほどピアノが好きで意思が強くないと出来ません。
レッスンも上級レベルになると一人40分以上、曲もベ－ト－ベン、ショパン、ドビュッシ－等の名曲に取り組みます。
　ここまで頑張る生徒さんを教えることは私にとって大きな喜びでした。

　ポワシ－音楽院のグレ－ド試験は約2ヶ月前、1月末に課題曲が2曲発表されます。
2月には2週間の冬休みがあり、ご家庭によってはスキ－に出発します。
　そして3月下旬から4月にかけて、ちょうど復活祭の休暇前に全楽器の試験が行われます。

　準備の為のレッスン回数は7,8回、決して多くはない。1回30分のレッスンでは足りないと思い、各自少しずつ時間調整をして延長レッスンをしていました。
皆タイプは各々でよく練習してくる子、一方で練習の大切さをお話しすることから始める子…
　この真冬から春にかけての試験シ－ズンが終わると一仕事終えた爽快感でいっぱいでした。

　パリでの出張レッスン、そしてポワシ－音楽院ではフランス人を初め、日本人、日仏ハーフ、イギリス人、モロッコ人、インド人など様々な国籍の子供から60代の大人まで教えていました。

　フランスの公立音楽院では、全ての国籍の子供達が音楽を気軽に学べるように環境が整っています。そしてグレード制でポワシ－音楽院では手ほどきの年は20分レッスン、二年目以降は30分です。
　毎年春にグレード試験があり合格すれば次のレベルに進めます。
例えば7歳でピアノを始めて4年間、順調にレベルアップすれば5年目からレッスンは40分以上になります。
でもここまで進むにはかなりの意思も必要．．．お勉強も一生懸命して本当にピアノが好きという気持ちがある子達は長く続けられました。

 

　ポワシ－音楽院では毎年、学年末6月に大劇場で華やかなバレエ発表会が行われます。

女の子達は衣装の話でもちきり、目をキラキラさせてとても楽しみにしていました。
また夏の２ヶ月のバカンスを前に学校の試験も終わり、季候もよく開放感にあふれ、町ゆく人々の表情もリラックスムードです。
私は頬を気持ちよく撫でてゆく初夏の風を感じるのが好きでした。

　ポワシ－でピアノを教えた生徒さんの中にバレエの道を選び、狭き門のパリ国立高等音楽院舞踏科に進んだ女の子がいました。彼女は本格的なバレエのレッスンが忙しくなった年までピアノを続け、内気だけど芯の強い、そしてとても繊細な感性の持ち主でした。

　ポワシー音楽院には音楽科と舞踏科があります。
フランスの各都市にある公立音楽院は子供から大人まで学べ、多くは舞踏科、演劇科と併設しています（パリ国立高等音楽院にも舞踏科があります）。

　ポワシ－で70歳くらいのマダムがビオラのレッスンに通われ、子供達と一緒にグレード試験を受けられているのを見たとき、芸術の国フランスでは生活の中に音楽を身近に感じられる基盤があり裾野が広く開かれていたことに感銘を受けました。
　オプションでとれるオ－ケストラも、子供から大人までレベルも年齢も様々でした。
それでもコンサートという目標に向かい皆で心を合わせて作る音楽の力を感じました。

　フランスには各都市に、そしてパリには各区に、子供達が気軽に音楽に親しめるようコンセルヴァトワール（音楽院）があります。
音楽の門が広く開かれていて、文化、芸術に対する伝統を感じました。

　年齢、レベルによるグレード制で、楽器のレッスンの他に必須のソルフェージュ、そしてコーラスやオーケストラもオプションでとれます。
　ピアノは6歳から始めることができ、初年度はレッスン20分のみです。その間に連絡帳に注意事項を書き込み、しかも生徒さん達が次々とドアをノックして入ってくる．．
手ほどきの子達が3、4人続くと目が回るほど忙しく、まるで小児科のお医者さんになったような気がした時もありました。

　ヨーロッパの夏は湿度の高い日本と違ってとても過ごしやすく、気持ちのよい開放感にあふれたバカンスを過ごせます。夜は10時まで明るく、ゆったりと食後の時間を楽しめます。

　しかし冬は長く厳しい．．．パリの冬は昼間でもどんよりとした灰色の空が多く、そして朝は8時過ぎまで真っ暗．．．全く起きる気がしない．．！その上なんといっても寒い．．
頬にまるでつららが立っているような感触です。乾燥した寒さというのは柔らかみがありません。
　なかなかパチッと目が覚めない中、ポワシーに行く土曜日は、パリのアパートをまだ真っ暗な7時40分に出ていました。

　私はパリ国立高等音楽院卒業後、パリ郊外にあるポワシーという街の音楽院で約10年間、6歳から20歳くらいまでの子供達にピアノレッスンをしていました。

ポワシーという街はモネ、ルノワールなど印象派画家に愛され、よく描かれていたイルドフランスという自然豊かなのどかな地方にあります。
　毎週土曜日、朝9時から18時まで約18人の生徒さんのレッスンをしていました。
パリからポワシーまで郊外電車で約30分、しかも1時間に2本しかない、1本逃がすと大遅刻になってしまうのでいつも金曜日の夜は「明日は早起きしなくちゃ！」と気を引き締めていました。